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非標識でリアルタイムに観察可能な化粧品機能性成分の皮膚浸透評価系を確立

株式会社マツモト交商(本社:東京都中央区、代表取締役社長:松本俊亮)は、国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院伊藤輝将特任准教授、三沢和彦教授との共同研究により、化粧品製剤中に含まれる機能性成分の皮膚モデルへの浸透性を蛍光物質などで標識することなく、直接的に観察する評価系を確立しました。この成果により、今後、より効果の期待できる化粧品製剤や化粧品原料の開発への貢献が期待されます。

本研究成果は、Wiley-Blackwell 刊行の論文誌『Skin Research and Technology』に 10 月 7 日に掲載されました。
論文名:Time-course quantitative mapping of caffeine within the epidermis, using high-contrast pump– probe stimulated Raman scattering microscopy
著者名:Risa Iguchi, Yoji Nishi, Tsuyoshi Ogihara, Terumasa Ito, Fumiaki Matsuoka, Kazuhiko Misawa
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/srt.13088

研究背景
皮膚は外界にさらされた組織であり、外部からの異物の侵入や体内からの水分蒸散を防ぐ重要なバリア機能を担っています。それにより、化粧品などを皮膚の外から適用しても、十分量を皮膚に浸透させることは困難とされます。化粧品中の成分がどの程度皮膚に浸透したかを評価するためには、これまでは検出感度の高い蛍光物質などで実際の成分を代替したり、標識したりすることで評価をしてきましたが、実際に配合される成分を直接検出することは困難でした。ラマン散乱という物質特異的なシグナルの検出を利用して、成分を直接検出する技術が開発されてきておりましたが、皮膚中の成分の検出においては、皮膚由来の成分に起因するノイズのシグナルによって高感度での検出に限界がありました。

研究成果
本研究では、波形整形パルスを用いた位相変調誘導ラマン散乱(PM-SRS)顕微鏡の技術〔2017 年 4 月 25 日東京農工大学プレスリリース〕を応用する事で、従来のラマン顕微鏡よりも高い感度で化粧品中の成分 を非標識検出することを可能にしました。図1は、皮膚モデルとカフェイン水溶液のラマン散乱スペクト ルを、従来のラマン散乱法と本研究の位相変調誘導ラマン散乱(PM-SRS)法とで測定した結果を比較した ものです。従来の測定法では、測定対象物質であるカフェイン固有の信号以外にも皮膚モデルや水溶液か ら発生する背景信号が検出され、その結果、目的信号と背景信号との比率が悪くなってしまいます。それ に対して、本研究の PM-SRS 法では、皮膚モデルや水溶液からの背景信号が大きく抑制され、測定対象 物質に対する高い感度が得られます。さらに、図2では、皮膚モデルの表面に塗布したカフェイン分子が 時間経過とともに、皮膚の内部に浸透していく様子を可視化したものです。この可視化は、非標識・非接触・非破壊で観測できるという特長を持つラマン散乱顕微鏡において、背景信号を抑制し目的信号のみが 取り出せる PM-SRS 法によって初めて可能になりました。
 これにより、様々な成分が配合される化粧品製剤を塗布した場合にも、機能性成分であるカフェインの皮膚モデルへの浸透性を測定することができることを確認しております。

図 1 皮膚モデルとカフェイン水溶液のラマンスペクトル測定
(A)従来のラマン散乱法、(B)位相変調誘導ラマン散乱(PM-SRS)法

図 2 皮膚モデルへのカフェインの浸透性
(左)カフェイン水溶液塗布 15 分後 (右)カフェイン水溶液塗布 360 分後
赤:共焦点反射、緑:PM-SRS(560 cm-1), スケールバー=50µ m

今後の展開
今後は、この評価技術を活用して、より皮膚への浸透性の高い化粧品製剤や原料の開発を目指します。また、本 PM-SRS 法は、化粧品の機能性成分以外にも、医薬部外品あるいは医薬品の薬剤分子に適用でき、生命科学・獣医学・医学など広範な分野における活用が期待されます。

用語解説
・波形整形パルス
レーザーパルスを回折格子等を使って光の波長ごとに分割し、液晶素子等を用いて波長ごとに光の位相を制御することで、目的の時間波形を持つ光パルスを生成する技術。

・誘導ラマン散乱顕微鏡
集光したレーザーを試料に走査して画像を得るレーザー顕微鏡の一種。瞬間的に光るパルスレーザーを試料に照射して分子振動を強制的に開始させ、そこにさらにもう1つのレーザーを照射すると、分子の振動数の分だけ周波数がずれた新しい信号光が放出される。この信号光の周波数から分子固有の振動数を、信号の強さから濃度をそれぞれ測ることができる。染色が不要なラマン顕微鏡の中でも、特に高い分子識別能と感度を持つ。

〔2017年7月25日東京農工大学プレスリリース〕 染色不要で小さな分子の濃度分布を撮影できる顕微 鏡を開発~レーザ1台で動作するコヒーレントラマン顕微鏡の撮影速度を 200 倍以上高速化~ https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2017/20170425_01.html

◆研究に関する問い合わせ◆
株式会社 マツモト交商
TEL:03-3241-5161

東京農工大学大学院工学研究院 
教授  三沢 和彦(みさわ かずひこ)
TEL:042-388-7485
E-mail:kmisawa@cc.tuat.ac.jp

研究資料のダウンロードは
こちらから

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